ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「ふざけないでっ!! さっきから、あなたたち二人して嘘ばっかり! 私がいつコートニーに衣装や宝石をあげたのよ! 持ち主に断りもなしに持って行ったくせに! ちゃんと本当のことを言って!!」
にわかに、コートニーの瞳からぽとぽとと雫が溢れ出す。
「お異母姉様、ごめんなさいっ! 言われてみれば……くれたんじゃなくて貸してくれただけのドレスもあったわね。それをいただいたネックレスと一緒くたにして、同じようにもらっちゃった気分になって、ごめんなさいっ!!」
「はぁっ!?」
「クロエ……あたくしからも謝るわ。たしか姉妹間で貸し借りをするって、取り決めたものもあるわよね。この要らないネックレス以外は」
「なにをっ――」
「もういい!」
スコットの苛烈な声が、どろどろとした感情の混じった空気を引き裂いた。
クロエたちははっと我に返って、水を打ったように静まり返る。彼の剣呑な様相が更に場を冷やした。
しばらくして、
「……ごめん。気分が悪くなったから帰るね。今日は見送りも要らないから」
スコットは静かに立ち上がって辞去した。
「っ……!?」
ふと、婚約者同士の目が合う。
にわかにクロエの全身を鳥肌が覆った。
スコットの優しい瞳は……氷の膜が張っているように無感情だったのだ。