ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「泣かないでくれ、クロエ。君が泣いていると僕も悲しくなる」
彼は、そっと婚約者の涙を指で掬う。
「怒って、いないの……?」と、彼女は震える口で尋ねた。
「まぁ、驚きはしたけど……君の性格ならそうだろうな、って。むしろ、そんな優しい君のことを誇りに思うよ」
「スコット……!」じわりと涙が溢れてきた。「本当にごめんなさいっ……!」
「いいんだ、クロエ。物は買い換えがきくからね。それより、君の清らかな心は唯一無二のものだから。僕は、見えないもののほうこそ、大切にすべきだと思うんだ」と、彼は彼女を抱きしめた。
「スコット……!」
クロエは婚約者の胸の中に顔をうずめる。
スコットは愛おしそうに、頭を撫でた。
彼女は優しすぎる。いつか、その優しさで雁字搦めになって、壊れてしまいそうだ。
そうならないように、しっかりと自分が彼女を守らなければ……。
(意外に単純なのね……)
彼女は婚約者の腕の中で、冷静に現状を分析していた。
逆行前は感じなかったが、目の前の彼はかなり情に流されやすく与し易い人物像のようだ。良くも悪くもお人好し。前回はコートニーとしても、さぞかしやり易かっただろう。
(こんなので将来、公爵家の当主としてやっていけるのかしら……?)
他人事ながら彼の今後がちょっと心配になった。
生き馬の目を抜く貴族社会で、彼は生き残れることができるのだろうか。ジェンナー公爵家が、彼の代で落ちぶれないと良いが。
……ま、自分には関係のない話だが。