ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「…………っ!」
スコットは思わず硬直する。これが初対面の令息に対しての態度か。婚約者とも密着したことがないのに、こんな、娼婦のような……。
すると、クロエは異母妹に聞こえないように、背後から彼にそっと耳打ちをした。
「可哀想な子なの。甘えさせてあげてね」
はっとして振り返ると、彼女は微苦笑して深く頷いていた。
彼は、彼女の慈悲深さに感銘を受けて、素直に義妹の過剰な接触を受け入れた。
クロエの言う通り、この子は庶子として生きてきた可哀想な子なのだ。異母妹の空っぽの水瓶のような寂しさを埋めてやるのが、彼女の希望なのだろう。ならば、年長者として叶えてやろうじゃないか。
「よ、よろしいのですか? お嬢様」と、マリアンが眉をひそめて囁く。
「あら、いいのよ。お父様もずっと別邸にいるわけじゃなかったし、異母妹は甘える相手が欲しいのよ」
クロエは二人の微笑ましい様子を見て、嬉しそうに相好を崩した。
(どんどん仲良くなりなさい。周囲から見ておかしいと思われるくらいに……)
こうして、三人の楽しいお茶会が始まったのだった。