ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
クロエはてきぱきとメイドたちに指示を出して、継母の席の用意と、全員分の熱いお茶を淹れて、追加のお菓子も持って来させた。
スコットは婚約者の隣に座ろうと試みたが、あれよあれよという間に、目ざとい母娘に挟まれてしまった。
「本当に素敵な方ね。スコット様は。お顔も綺麗で、身分も高いし。たしか、王太子殿下の側近をされているんですって? とっても優秀なのね」と、クリスが言いながらスコットに顔を近付ける。
スコットは笑顔を貼り付けながらも、驚いて少しだけ顔をそらす。すると、そこにはコートニーが瞳を輝かせながら彼を見つめていて、たじたじになった。
(凄いわね。まるで女狩人だわ)
そんな滑稽な様子を、クロエは他人事のようにぼんやりと眺める。
きっと、逆行前も二人のこの勢いに彼はやられたのだろうと思うと、おかしくて思わず笑いが込み上げてきた。
「い、いえ……。王太子殿下の側近に選ばれたのは、たまたま僕の身分が高かっただけで、そんな優秀なんて……」と、スコットは謙遜する素振りを見せる。眼前の侯爵夫人の香水の匂いが、頭をくらりと刺激した。
「えぇ~! そんなことないですよーぅ! きっと、スコット様がご優秀だから選ばれたんですよぉ~」と、コートニーはまたぞろ彼の腕に絡み付いた。
「あ……ありがとう」と、彼の顔が強張った。助けを求めるように、クロエを見る。しかし、彼女はふふっと微笑して頷くだけだった。
「いいなぁ~! お異母姉様にはこぉ~んな素敵な婚約者がいてぇ~」
「そうねぇ、コートニーにも、いつか素敵な殿方が現れるといいのだけれど……。残念ながら、今もクロエにしか良い縁談が来ないのよねぇ~」と、クリスが艶めかしい視線をスコットに送った。
コートニーも意味深長に瞬きながら未来の義兄を見る。
「えっ! 縁談んっ!?」
スコットは間抜けな大声を上げながら、思わず立ち上がる。
そして目を見開いて、婚約者を見た。