ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
(そう来るのね……)
クロエは微かに肩をすくめた。異母妹に加えて継母が来るということは、なにか仕掛けて来るとは思っていた。
おそらく、婚約者がいるにも関わらず未だに縁談が舞い込んでいることを理由に、不誠実な女とでも彼に思わせたいのだろう。
「まぁっ、スコット様はご存知ないの?」
……案の定、クリスの濃く縁取られた瞳ぎらりと光った。
「お異母姉様は今もたっくさん縁談が来ているんですよ~!」と、コートニーも母親に続く。
「えっ……と、どういうこと?」
スコットは困惑顔でクロエを見た。そんなこと、聞いていない。
まさか正式な婚約者がいる令嬢に縁談を持ち込むなんて……どこの恥知らずの貴族だ。
「まぁ、クロエはスコット様に言っていなかったの? 婚約者なのに、冷たいのねぇ……」クリスは仰々しく嘆いてからスコットを見た。「旦那様がおっしゃっていたの。クロエが聖女になってから縁談が後を絶たない、って」
「そうなの……?」と、スコットが気の抜けた様子でぽつりと訊く。
「えぇ、そうよ」クロエは真顔で返す。「お父様にお願いをして、求婚は全てお断りをしているわ。だから、心配しない――」
「あのね! スコット様!」出し抜けにコートニーの甲高い声が二人の会話を遮った。「お異母姉様はね、なんと、あのキンバリー帝国の皇子様からも求婚されているのよ! 凄いでしょう!?」
「帝国の皇子だって!?」
スコットは目を剥く。衝撃で全身が痺れたように硬直した。
キンバリー帝国の皇族なんて、ただの公爵令息の自分にとって雲の上の存在だ。そんな高貴な人物が、クロエに求婚だって? いくら侯爵家でも、帝国の権威には逆らえないんじゃないか。
それに計算高いパリステラ侯爵がこの機を逃すわけ――……。