ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「スコット」
クロエの呼び声で、彼ははっと我に返った。不安の波が押し寄せてくる。懇願するように婚約者を見た。
「安心して。お父様には丁重にお断りするように、お願いをしてあるから」
「そ、そう――」
「えぇ~っ! お異母姉様、ちょっと迷ってたじゃないですかぁ~っ!」
またぞろ異母妹が二人の間に割って入った。
「そうねぇ、さすがに帝国の皇子に求婚されたらクロエも嬉しいわよね。あのときも、なにやら考え込んでいたし」と、クリスも嬉々として援護射撃をする。
矢庭にスコットの表情が曇って、クロエは呆れたように小さくため息をついた。
(面倒ね……)
母娘の魂胆は見え見えだ。侯爵令嬢が皇子と公爵令息を天秤にかけている……とかなんとかを彼に思わせる気だろう。
そして最終的には二人の仲を壊す? 全く、よく悪知恵がぽんぽんと思い浮かぶものだ。
しかし、こちらとしても負けてはいられない。
あの時みたいに、ただ打ち負かされているクロエではないのだから。