ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「二人とも、お待たせ」
いよいよスコットがやって来た。
コートニーはカーテシーもせずに、きゃあきゃあと彼の腕に絡み付く。彼はそれを軽くいなしてクロエのもとへと向かって手を取り、そっと甲に口付けをした。
「今日の君は、星空の女神のようで凄く綺麗だね……」
「ありがとう、スコット」
スコットがクロエをエスコートしようとすると、
「あら、駄目よ。今日はコートニーの社交の練習も兼ねているから」
クロエはさらりとかわして、異母妹の手を取り、彼の前へ持っていった。
「えっ……?」と、彼は目を丸くする。
「悪いけど、彼女にエスコートのされ方の基本から教えてあげて欲しいの。私は付添人みたいに横から異母妹にアドバイスをするわ」
「スコット様ぁ~、よろしくお願いしますぅ~っ!」
コートニーのねばつくような熱い視線が、彼に飛ぶ。
「あ、あぁ……分かったよ……」
彼は肩を落としながらも、練習なら仕方ないと渋々未来の義妹の手を取った。
馬車の中でも、クロエの提案でスコットとコートニーが横並びに座る。
二人の前にクロエが二人の座り、異母妹にスマートなエスコートのされ方を伝授していた。
異母妹は「はいはい」と頷きながらも、スコットにべたべたと引っ付くことばかりに集中して、彼のほうは義妹にろくに取り合わずに、ぼんやりと婚約者を眺めていた。
同じ目的の外出、同じ空間に三人いるのに、気持ちは誰も交差しなかったのだ。