ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
コートニーが男を狩ろうと踵を返した折も折、
「あなたがコートニー・パリステラ侯爵令嬢?」
出し抜けに数人の令嬢が彼女を取り囲んだ。誰しもが冷たい視線を彼女に向けて、扇の奥からあからさまな嘲笑の声も聞こえる。
コートニーはぎろりと令嬢たちを睨み付けて、
「そうですけど、なにか?」
「まぁ、怖い。平民は感情を隠さないのね」
「その場違いで悪趣味な恰好……下女かと思ったわ」
「は? なにが? なに言ってるの? 意味分かんないんだけど」
普段の彼女の様子からは信じられないような、どすの利いた低い声が令嬢たちを刺す。お上品な彼女たちは少しだけ怯んだ。
一拍して、リーダー格の令嬢が一歩前へ足を踏み出して、
「あなたみたいな人がクロエ様の異母妹だなんて最悪だわ」
それが合図かのように、再び令嬢たちの攻撃が始まった。
「そうよ。娼婦の娘のくせに」
「早く平民に戻りなさいな。高貴なクロエ様の邪魔をしないでちょうだい」
「ネックレスを盗むなんて乞食みたいね。最低」
「クロエ様、お可哀想。こんな下民に集られて」
「なによ、そのドレス。ぼろ雑巾みたい」
「あなたに相応しい汚い場所へ帰りなさいよ。娼館がお似合いだわ」
コートニーは眉一つ動かさずに、黙って令嬢たちの話を聞いていた。
(これが社交界の洗礼ってやつね。こいつらの顔の形が分からなくなるくらいに、ぶん殴るのもいいけど、今日はイイ男あさりの日だし……)
貴族の世界は非常に厳しいことは母親から聞いていた。少しでも気を抜くと、一気に奪われてしまう。
だから……やられたら、やり返す。逆境も上手いこと波にのせて、乗り切るのだ。
彼女はすっと息を吸って――、
「ふええぇぇぇぇぇぇぇぇええんんっっっ!!」
にわかに、コートニーの大音声の鳴き声が会場中に響き渡った。