ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
コートニーの勢いは止まらない。
「本当に、悪いことだなんて知らなかったんです……。あたしのやったことが、お異母姉様を傷付けていただなんて……。こ、こんな、大ごとになるなんて……。教えてくれたら、頑張ってお勉強したのに…………!」
水を打ったように静まり返った会場に、コートニーの弱々しい声が響く。その姿は可憐そのものだった。
令息を中心に、ぽつぽつと同情の囁き声が聞こえてくる。
「これは……仕方がなかったんじゃないか?」
「そうだ。知らないんだから、教えてやれば良かったのに」
「聖女なのに、案外冷たいんだな」
「コートニー嬢は清らかで純粋な子だなぁ」
ぞくりと背中に悪寒が走った。
この流れは非常に不味い。無責任な貴族社会だ、このままではあっという間に「妹をいじめる姉」という構図が成り立ってしまう。
そうなれば、逆行前のように、社交界へ顔を出せなくなる事態にまで発展する可能性だってある。
ふと、異母妹を見た。
彼女は今もさめざめと涙を流している。それは庇護欲を掻き立てられるような、とても愛らしい姿で、実際に心を奪われる令息もちらほらいたほどだ。
しかし……コートニーの口元の両端が微かに上がっているのを、クロエは見逃さなかった。
(やられたわ……! 完全に意図的なものね……)
クロエは確信する。
これは、コートニーの作戦だ。大声で泣き喚いて注目を集め、謝罪する素振りで異母姉を追い詰める……。
やはり、この母娘は油断ならない。