ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


 その継母と異母妹は当主の威光を笠に着てやりたい放題で、最近では気に入らない侍女や執事に辛く当たったり、以前に増して無理難題を言うことも多くなった。
 そして彼女たちが連れてきた従者たちがだんだんと幅を利かせるようになって、侯爵家の秩序は徐々に乱れていった。

 義憤に駆られたクロエが父に進言するが、侯爵は妻クリスと娘コートニーに汲みして、逆に前妻の娘クロエのほうが「二人が気に入らないから意地悪をしているんじゃないか?」と、あらぬ嫌疑を受けることもあった。

 父は愛人に溺れてから変わったのか、それとも端からそういう人間だったのか。
 長らく父親と向き合っていなかった彼女には、もう知る由もなかった。

 しかし、確実に言えることは、屋敷の雰囲気がどんどん悪くなっていっている。
 パリステラ家の人間として、これだけは見逃せなかった。事実、暇を乞う使用人も出てきていた。それは彼女の母親が存命の頃から仕えていた者も含まれ、やるせない気持ちでただ見送るしかなかった。

 クロエは何度も父親に進言するが、最後のほうは「下らぬ醜い嫉妬心」だと斬り捨てられて、もう相手にもされていなかった。

 継母は従者たちに対してついに手まで出すようになって、鋭い鞭の音が暗い廊下に響く日もあった。
 メイドたちは常におどおどと、新しい侯爵夫人の顔色を伺っている。
 屋敷全体が底なし沼のように深く沈んでいって行くようで、パリステラ家にはいつまでも暗雲が立ち込めていた。


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