ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「いい加減に泣き止みなさい、コートニー」
クロエの冷厳な声が響く。
コートニーがびくりと肩を震わせて顔を上げると、異母姉がきわめて険しい視線を自身に向けていた。途端に粟立って、偽りの涙もぴたりと止まる。
婚約者の剣幕にスコットも押し黙った。
「いいこと?」クロエは静かに低い声で言う。「令嬢は人前で感情を露わにしてはいけません。仮に辛辣な言葉を投げかけられても、笑顔で皮肉を返して場を収めるのが基本です。家庭教師に習わなかったのかしら?」
クロエに気圧された厳しい沈黙のあと、一拍してコートニーが小さな口を開いた。
「そっ、そんなの……知らない…………です」
クロエは深いため息をつく。にわかに頭痛がして、こめかみを押さえた。
「お父様に言って家庭教師を替えてもらうことにするわ。もっと厳しく躾けることにしましょう」
「そんなっ! 酷いですぅぅっ!」
「クロエ、それはあんまりじゃないか。まずは、カリキュラムの見直しから――」
「部外者は黙っていてくださる?」
「っ……!」
婚約者の冷たい一言に、スコットは二の句が継げずに硬直した。ちくりと胸が痛む。