ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「クロエ」
出し抜けに、スコットが婚約者の名前を呼ぶ。
異母妹との話が一旦終わったので、クロエは「なぁに?」と彼のほうを向いた。
彼は酷く悲しげな顔をして、
「なんだか……変わったね。君は」
衝動的に、胸の奥にはびこるもやもやを、ぽつりと吐き出した。
次の瞬間、クロエの顔色が変わった。
異母妹を叱り付けるときも、高位貴族らしく凛とした美しさをまとっていた彼女の顔はみるみる歪んでいく。
深い憎悪のようなものを向けられているように感じて、彼は総毛立った。
刹那、雪景色のような静寂が冷たく二人を包み込む。
スコットの不安に揺れる瞳と、クロエの怒りに焼かれる瞳が交差した。
ややあって、
「…………誰のせいだと思っているの?」
クロエは、周囲には聞こえないくらいの微かな音で呟いた。
「えっ……? クロエ?」
彼女の僅かに動いた唇を見た彼は、なにか言ったのかと聞き返す。
しかし、その返事は来なかった。