ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


「よしよし」

 そのとき、コートニーがスコットの頭をぽんぽんと優しく撫でた。

「えっ……えっ!?」

 彼の顔がみるみる上気する。思わぬ事態に、身体が固まった。

「あのね、あたしが落ち込んでいるときに、よくお父様が頭を撫でてくれていたの。こうされると、なんだか嬉しくなって。すぐに元気が出るのよ」と、コートニーは無邪気に笑う。

 義妹の笑顔に、彼は緊張が解けて、硬かった肉体もすっとしなやかになっていくのを感じた。

「僕のことを元気づけようと?」彼もふっと笑みを漏らす。「ありがとう、コートニー嬢」

 昔の記憶を思い出した。
 あれは、クロエと婚約が決まってまだ間もない頃だ。母親が流行り病に倒れて、ベッドから起き上がれない日が続いたことがあった。
 母はこのまま死んでしまうのではないかと沈み込んでいたとき、

「よしよし」

 静かに隣で座っていたクロエが、優しく頭を撫でてくれたのだった。

 あのときの、包み込まれるような安堵感は、今でも鮮明に覚えている。悲しみで満たされた心は、波が引いていくかのように穏やかになったのだ。

 ――そんな淡い思い出が頭の中に過って、思わず頬が緩んだ。

 コートニーは、今度はスコットの頭をそっと胸に引き寄せる。

「いい子、いい子」

 そして、またもや彼の頭を撫でた。
 スコットは、なにも言わずに彼女に身を任せる。

 ただ心地よかった。昔のクロエの姿と重なって、なんだか懐かしい気分になったのだ。

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