ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「ク、クロエ様……。これは……!」
丁度そのとき、クロエと一人の令嬢が二人の姿を見ていた。
一人で三人分のグラスを持つのは大変だろうと、運ぶのを手伝ってくれた令嬢である。
クロエは一瞬だけ目を見張ったが、なにも言わずに少しだけ口角を上げるだけだった。
(あら、第三者の前でこんなことをしてくれて、なんて幸運なのかしら)
今日は、スコットとコートニーの浮気現場を作れないかと目論んでいたが、異母妹の起こした事件のせいで、諦めるしかないと思っていた。
しかし、二人自らが疑わられるような行為をして、それを他の令嬢が目撃をして……なんという僥倖なのだろうか。
隣にいた令嬢は、クロエの微笑が「全てを知っている」からそこの反応だろうと勘違いをして、心を痛める。
「その……どうか、お気をたしかに……」
「ありがとうございます。……でも、良いのですよ」と、クロエはどう捉えられても良いように曖昧に答える。気丈な姿に令嬢は胸を打たれた。
これで二人の不名誉な噂が広がるだろう。
計画に向けて、良い方向へ進みそうだ。
クロエは何事もなかったかのように、二人に飲み物を持っていって、少し休んだら帰りの馬車へと足を運んだ。
そのとき、
(ユリウス……!?)
とても懐かしい友人の姿を見た。思わず彼を追ったが、すぐに見失ってしまう。
スコットに呼び止められて、渋々踵を返した。
帰りの馬車でも頭の中はユリウスのことでいっぱいだった。
彼はもう、こちらに来ているのだろうか。
となると、図書館に――……。