ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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スコット・ジェンナーは困惑していた。
(おかしい……)
あの日から一週間たち、彼はクロエに手紙を出したものの、彼女からは一向に返事が来なかったのだ。
いや、それ以前にも……だ。
パリステラ家に新しい家族が来てからというもの、これまで頻繁にやり取りをしていた手紙がぱたりと途絶えていた。
彼女の新しい生活が始まったから、きっと手紙を書く余裕がなかったのかもしれない。
なにせ最愛の母親が逝去して半年で新しい母と妹がやって来たのだ。おそらく彼女の心は未だに嵐のように荒ぶっているのだろう。
だから、手紙を書かなくなるのも、仕方のないことかもしれない。
だが、あのクロエがこんなに長い期間も手紙をしたためないなんて、あり得るだろうか。
彼女は筆まめな子だし、なにより侯爵令嬢として礼節は怠らない。なので婚約者――しかも自身より高位の貴族に対して、手紙の返事をしないなど不義を働くようなことがあるだろうか。
(やっぱり……怒っているよな……)
スコットは、あの日――パリステラ家へ行った日は雷に打たれたような想定外の出来事に動揺して、冷静な判断力を失ってしまった。
自身が婚約者のために選んだプレゼントを、断りもなしに異母妹にあげるなんて……。
それは、彼にとって自分自身が彼女から否定されてしまった感覚で、つい頭に血が上ってしまったのだ。
特にあのネックレスは、クロエが15歳になった記念の思い入れの強いものだった。
しかし……冷静に考えると、あの優しいクロエがそんなことをするはずがない。
きっと、なにか事情があるはずだ。多分、クロエと異母妹たちの間になにか誤解が生じたのだろう。
(クロエに酷いことをしたな……)
スコットは肩を落とした。自分は衝撃の連続に狼狽するあまり、クロエに酷い態度を取ってしまった。
今頃、傷付いて泣いているかもしれない。ちゃんと話し合って、早く和解をしなければ。
大事な婚約者と、このような形で終わらせてくない。
「よしっ……!」
スコットはペンを取る。もう一度クロエに手紙を書くのだ。
(そうだな……。直接会って話がしたい、君に謝りたい……と、今の気持ちを素直に綴ろう)