ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「マリアンがクロエの私物を盗んでいるところを見た」
その日の夜、メイドの勇気ある告発を受けたクリスは意気盛んにマリアンの部屋へと向かった。証拠品を差し押さえて糾弾するつもりだ。
そして解雇して屋敷から追い出す……それも、継子に実行させる。それが彼女の計画だった。
「なにを騒いでいるのです?」
お誂え向きにクロエも騒動に気付いてやって来た。
クリスは事情を説明して、継子も現場に立ち会って、決定的な瞬間を見てもらおうと思ったのだ。
「あの……申し上げにくいのですが」クロエは眉尻を下げた。「私のガラスペンは盗まれていませんわ」
「そんなこと……! 現にこの子が見たのよ!?」
クリスは衝動的に声を荒げる。そして、きっとメイドを睨み付けた。メイドは震え上がりながら、ふるふると首を横に振る。
クリスは無言でマリアンの部屋まで急いだ。
そして、メイドの言う通りに引き出しを開けると、
「ないっ……!!」
そこには、クロエのガラスペンなんて欠片さえも入っていなかったのだ。
クロエはくすりと笑って、
「ね、言ったでしょう? だって、ガラスペンはここにありますもの」
おもむろに懐から盗まれたはずのペンを出す。
途端に、継母の顔が夕焼けみたいに真っ赤に染まって、メイドの顔は雪のように真っ白になった。衝撃で二人とも声が出ないようで、片や怒りに、片や恐怖に震えていた。
「マリアンがそんなことを行うわけがありませんわ、お継母様」
そんな間抜けな様相の二人を、小馬鹿にするようにクロエは苦笑した。