ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
(いた…………!!)
はっと息が止まる。矢庭に顔が火照って、無性に恥ずかしさを覚えた。
ユリウスは、そこにいた。
あの頃と変わらない、流れ星のような繊細な銀髪をなびかせて、夜空を薄めたようなタンザナイトの双眸をじっと文章に注いで、銅像みたいな美しい姿勢を保っていた。
思わず、息が止まる。
彼女の瞳には彼だけが焼き付いていた。涙が出そうになったが、人前なのでぐっと堪える。
内側から叩き付けるように強く打つ心臓を押さえながら、再び彼をそっと盗み見た。
(あら……?)
そのとき、彼女は気付く。今、彼が読んでいる本は、あのとき自分が読んでいた――……、
「面白い本を読んでいるわね」無意識に、彼に声をかけた。「私も好きなの。その物語」