ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
あのとき、鐘塔の上からユリウスを見た気がした。全身がびしょ濡れで、必死でなにかを叫んでいたような……。
「ユリウス」クロエは揺れる瞳でユリウスを見る。「あなたは、あのとき――」
――ぐうぅぅぅぅ…………。
にわかにクロエが顔を真っ赤に染める。
小高い丘に、彼女の空腹の叫びが響いたのだ。
(嫌だわ、私ったら……恥ずかしい!)
羞恥心で思わず俯く。全身がかっと熱くなった。
図書館へ行こうと決めて、今朝は緊張でなにも喉を通らなかったのだ。
心配したマリアンが、お砂糖たっぷりのミルクティーを用意してくれて、口にしたのはそれだけだ。
ユリウスに相まみえて安堵感で緊張がほぐれたのか、彼女のお腹は突如としてベルを鳴らしながら、空腹を訴えてくるのだった。
「まずは腹ごしらえだな」ユリウスはくすりと笑う。「一緒に食べようか? スコーン」