ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「美味しい……」
ユリウスから貰ったスコーンは、ほんのり甘くて、練り込んであるチョコチップがぷちぷちして。優しい味が心に染み込んだ。
あのときと変わらない味。
クロエはそれ以来、このスコーンが大好きになった。彼女の一番好きなお菓子だ。
逆行して、もう一度食べたいとずっと思っていたのだが、大切な思い出の味なので彼と一緒に食べるまでは我慢していた。
今、この瞬間……彼の隣でスコーンを食べることができて、じんと温まるように全身が幸福感で満たされていった。
「………………」
ユリウスは無言でスコーンを頬張る。流れ作業のように喉に通すが、食道はなかなか門を開けてくれなくて、苦心した。
実のところ、あまり食欲が湧かなかったのだ。
彼はこの国へ来て以来、一日たりとも休むことなく図書館へ通っていた。いつクロエが来るか分からなかったからだ。
だから、毎日毎日やって来ては、既に読んだ本に再び目を通し、ひたすら彼女を待った。
そして、このチョコレートのスコーン。
彼は、彼女と再会したときは絶対に思い出のスコーンを二人で食べようと、いつも買って持って来ていた。なので昼食はいつもスコーンだ。
たしかに、このスコーンは格別で、彼も大好物なのだが……毎日食べていたので、さすがに飽き飽きしてたのだ。
クロエに再会できた喜びは計り知れない。
一緒に思い出のスコーンを食べることができて、とても嬉しい。
だが、スコーン自体は……ちょっと食傷気味だった。