ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


 彼はもそもそと、ゆっくりと口へ運ぶ。隣にいた彼女は、その様子を見て少し不安な気持ちになった。

「あの……」おずおずと彼に訊く。「もしかして……美味しくない? スコーン、本当は嫌いだったのかしら……?」

 少しだけ悲しい気分になった。彼は、あまり食が進んでいないように見える。
 もしかして、無理に食べている? 自分との再会が嬉しくないのだろうか……。
 そうだったら、ちょっと……残念。

「ちっ……」矢庭にユリウスの顔が青ざめる。「違うんだ、クロエっ!!」

 彼は恥を忍んで、本当のことを打ち明けた。
 毎日図書館に通って、毎日スコーンを用意して、ずっとクロエを待っていたこと。

 彼女には嘘をつきたくなかったし、些細なことから誤解が生じて、二人の間に溝ができるような事態になるのは避けたかった。
 もし、そんなことになって仲違いするくらいなら、己の恥ずかしい部分なんていくらでも曝け出そう……と、彼は思っていた。
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