ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

54 時の魔法の秘密です!

 丘の上の爽やかな空気が、一瞬でキンと冷えた気がした。緊張感を孕んだ沈黙が二人を包む。

 ――ユリウスは、自分の知らない「なにか」を知っている。

 クロエは全身が痺れたように強張った。にわかに興奮してきて、喉の奥がひりついた。


「それは」数拍して彼女が低い声音で問う。「あなたの……その瞳にも関すること? 過去に戻る前と、逆位置の瞳が輝いていることと」

 彼は少し目を見張ってから、

「よく気付いたな。驚いた」

「馬鹿にしないでよ。あなたのこと、絶対に忘れるわけがないわ」と、彼女は口を尖す。そして、すぐにはっと我に返った。

(こ、これじゃあ私がユリウスのことを、好きみたいじゃない……!)

 彼女はかぶりを振った。いや、今はそんな色恋沙汰を呑気に話している場合ではない。
 だって、自分と彼は、絶対に結ばれない運命なのだから――……。
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