ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「時間の流れは複雑だ。一族の言い伝えでは、俺たちの生きている世界とは別の世界なんてものも存在するらしい。そういう場に行き着いたときは、左目が赤く染まるらしいが……まぁ、古い文献に書かれているだけなので、本当のことはどうかは分からない。確かに言えることは、俺たちアストラの末裔は時間を司る魔力を持っていて、更に時間を移動できること。そして瞳の状態で、己が今どの時間軸にいるかが判断できるってことかな」
「でも……」クロエは震える唇を動かす。「私は逆行前は瞳が光っていなかった。時を遡って、初めて左に輝きが灯ったわ」
ユリウスは顎に手を当てて少し考える素振りを見せてから、
「君は逆行前は魔力を持っていなかったし、あの時間軸だと絶対に発動できなかった。逆行して初めて魔力に目覚めた――それは産まれたての状態と変わらないから、きっと左なんだろう」
「そう、なの……」
クロエはうんうんと頭をひねる。これまでの常識がひっくり返されたみたいに混乱していた。まさか自分が、そんな大層な一族の末裔だなんて……。
「じゃ、じゃあ……お母様は一度は時を巻き戻した、ということなのね……?」
震える声で、おそるおそる尋ねる。彼の話だと、右目が輝くということは、そういうことなのだろう。
一体、母はなにが目的で過去に戻ったのだろうか。
――あの愛のない結婚をやり直したかった?
やはり、自分の存在が、母の足枷になっていたのだろうか。自分が生まれて来なければ、母の人生はもっと幸福に溢れていたのだろうか……。