ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

 スコットは彼女の心の支えだった。

 二人は12歳のときに婚約が決まった。完全な家同士の政略結婚だ。
 初めての顔合わせでクロエはスコットの姿を認めるなりどきりと胸が高鳴った。それは、彼も同じだった。

 第一印象は良好。その後の会話も弾んで、二人はみるみる仲良くなっていった。まるで家同士の婚約になんて見えないかのように、二人は親密になった。
 少しずつ愛情が育まれて、いつしかクロエもスコットも、互いになくてはならない存在に変化していったのだ。


 クロエの母はよく娘に「あなたは心から愛する人と必ず幸せになれるわ。だから、なにがあっても絶対に諦めないでね」と、言っていた。
 それをクロエは笑いながら「スコットのことを諦めるなんてあり得ないわ。大丈夫、私たちは絶対に幸せになるから」と、いつも冗談半分に笑いながら返していた。

(きっとお母様は自分たちの政略結婚が上手くいかなかったから、私たちには幸せになって欲しいのね)

 この頃のクロエには両親の婚姻が上手くいっていないことを知っていたし、自分に腹違いの妹がいることも知っていた。そのせいで、大好きな母が苦しんでいるということも……。

 だから、自分たちは政略結婚だけど、絶対に幸せになってみせる。
 そして、温かい家庭を築いてお母様を安心させてあげたい、お母様には孫とゆったりした時間を過ごして欲しい……そう彼女は願っていた。
 
 スコットとクロエは週に二回は会っていて、大体はジェンナー公爵家で楽しい時を過ごしていた。
 嬉しいことも悲しいこともどんなことも互いに吐露し合って、二人だけの秘密の共有――固い絆が出来上がっていたのだ。
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