ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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「クロエお嬢様、そろそろお時間ですよ」と、侍女のマリアンがソファーでうとうとと舟を漕いでいたクロエに優しく声をかけた。
「えっ……!」
クロエはぱちりと目を開けて、飛び上がる。
「今日はコートニー様と一緒に授業を受けるのでしょう?」
マリアンはくすりと笑った。主を見るその視線は愛情が詰まっていた。
彼女はクロエの母親の代からパリステラ家に仕えていた。幼いクロエの乳母も兼ねていて、実の娘のように大切に見守っているのだ。
「そうだったわね……」
クロエは憂鬱そうに息を漏らす。両肩に鉛が乗っているみたいに気が重かった。
本音を言うと行きたくない。
彼女は、できる限り継母と異母妹と関わりたくなかった。
二人の意図が見えない。なぜ、嘘をつくのかも分からないし、そのことに良心の呵責もないことが理解できなかったのだ。
これ以上、あの母娘の感情に触れるのが恐ろしかった。だって、本当に意味が分からないのだから。