ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「そうだな。おそらく君や俺が生まれる前に、母君は一度時を遡ったのだろう。実際に俺の母は、俺が物心つく頃には右目が輝いていた。母自身は逆行の魔法を使っていないので『きっと誰かの一巡した世界を生きているのね』って言っていたよ」
「他の誰かが発動させたら分かるってこと?」
ユリウスは頷く。
「あぁ。瞳の変化と……記憶も受け継がれる。母は人生を変えるつもりはなかったから、逆行前と同じことを完璧になぞるのは大変だったって笑っていた」
「……だから、あなたは私のことを覚えていたのね」
「もちろんだ。君も、前の記憶が残っているだろう?」
にわかにクロエの顔が曇る。
逆行前の記憶……思い出したくもない記憶が、今も彼女を苦しめていた。
こんなおぞましい記憶なんて、本当は忘れてしまいたい。忘却の彼方へ放り投げて、普通に暮らしたい。
でも、仮にそうなったら、自分はまた「ゴースト」になっていたのかもしれない。
そう考えると、記憶を持って過去へと舞い戻ったのは幸運なのだ。
だから、今の自分にできることは全部やらなければ……。