ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「それで」クロエは力のこもった鋭い視線をユリウスに送る。「その逆行の魔法はどうやるの? 発動の条件は?」
また、静かになった。
ユリウスは黙ってクロエを見つめ返している。その瞳は揺らいでいるような、憂いを帯びているような不安定な色だった。
「それが……分からないんだ」
数拍して、彼は残念そうに首を横に振った。
「分からない?」
「そう。文献には逆行の魔法の方法まで書いていない。母も知らないし、受け継いでいないと言っていた」
「そうなの……」
クロエはがっくりと肩を落とす。
どうしても知りたかった。自身もずっと研究しているが、分からないままだ。どうあがいても、過去に戻る魔法は二度と使えないのだ。
「ただ、とてつもない魔力が必要だとは聞いている。それは膨大な量で、いくらアストラ家の血を引いていても、誰もが逆行の魔法を使えるわけじゃない、って」
「発動にはなにか条件があるということね?」
「あぁ。一つは、魔力。あとは、想いの強さではないかと……母は言っていた」
「想いの強さ……」
「そうだ」彼は深く頷く。「……クロエは、どうしても過去へ戻りたい理由があったんじゃないか? 君は、これからなにをするつもりなんだ?」
彼の問いかけに、彼女の顔から一瞬で感情が消えた。