ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
――彼に知られていた!
それは、パリステラ家での惨めな暮らしぶり……貴族の令嬢として、あり得ない生活を彼は知っているということだ。
おそらく、空腹に耐えかねて生ごみを漁っていたことも……!
急激に寒気が襲ってきた。身体が氷水に漬けられたみたいに冷たくなって、ガタガタと震え出す。
顔だけはたぎるように熱くて、くらりと目眩がした。
恥ずかしかった。
彼の前だけは、自分の影の部分を見せたくなかったのだ。図書館で笑い合う、ただの「普通の」良き友人でいたかった。
「ごめん……!」ユリウスは震えるクロエの両腕を鎮めるように優しく掴んだ。「その、あまりに痩せこけている君のことが心配で、勝手ながら背景を調査したんだ。でも、俺はなにもできなくて……ごめん…………」
思わず頭を上げて彼の顔を見る。タンザナイトの青い瞳は、まるで蝋燭のように不安定な光を放っていた。
(そんな……あんなに助けてもらったのに……)
冷えていた心が、じわじわと温かくなっていくのを感じる。嬉しくて涙が込み上げてきた。
彼は自分のために、あんなに多くの幸せをくれたのに。心を痛める必要なんて、全くないのに。