ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「えっ……?」
予想外の彼の反応に、彼女は目を丸くする。冷淡な言葉を覚悟していたのに、明るい声音に救われた気がした。
「パリステラ家の君への仕打ちは常軌を逸している。それは人の尊厳を踏みにじる行為で、決して許されないことだ。だから、否定はしない。仮に俺が君の立場だったら、今のチャンスは逃さないね」
「そ、う……」
「だが、君の性格なら、人を傷付けるのは辛いんじゃないのか?」
「…………」
彼女の顔が曇る。高揚していた気持ちが少しだけ下がってしまった。
たしかに、かつての気弱だった自分は、そうだったのかもしれない。でも、そういう感情はもうどこかへ置いてきてしまったようだ。そんな、綺麗事なんて。
「だから、復讐なんて止めなさい、ってこと? あいにくだけど、私はそんな殊勝な性格では――」
「あー、違う、違う。俺が言いたいのは、もっと上手く立ち回れ、ってことだ。今後の自身の人生への影響を考慮して、そうだな……まぁ、考えている8割程度にしとけ、ってこと。あまり、やりすぎないように!」
「へっ…………?」
またまた彼の予想外の言葉に、彼女は気の抜けた声を上げる。ちょっとだけおかしな気分だった。
普通は「復讐なんて悲しみの連鎖を生む行為は止めておけ」「死んだ母親も喜ばない」なんてお説教をされる場面なのだと思う。
でも、彼は自分の意思を尊重してくれて。……とても嬉しかった。
しかし――、
(今後の人生なんて……)
自分には、明るい未来の設計図なんて考えられない。