ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「ちょっとお化粧を直しましょうね……あら?」マリアンは顔を曇らせる。「お嬢様、涙のあとが……」
「あっ、ごめんなさい。その……お母様の夢を見ていて」と、クロエは恥ずかしくなって目尻を押さえる。
「そうでしたか」
マリアンはクロエに目線を合わせて、にこりと笑った。
「お辛いのは分かります、お嬢様。でも、大丈夫ですよ。お嬢様には私たちがいますから。ずっと、お側でクロエ様の幸せを願っておりますから」
「そうね……!」
マリアンの言葉に胸が一杯になって、クロエの口角も自然と上がった。
彼女はいつも嬉しい言葉を投げかけてくれる。母が死んで以来、それがどれだけクロエ支えになっているか……。
「ありがとう。私にはあなたたちがいたわ。だから、いつまでもくよくよしていては、いけないわね」
そうよ、そうだわ。……と、クロエは自身に言い聞かせる。
母亡き今、パリステラ家の長子である自分がしっかりしなければ。私がいつまでも悲しみの雨を降らせたままで、屋敷の雰囲気を暗くしてどうするの。
(スコットにも、直接会ってもう一度話をしよう)
クロエは、マリアンや自分に仕えてくれる者たちの為にも、頑張ろうと思った。
それが、高位貴族として上に立つ者の役目だから。