ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
彼は彼女の双眸をまっすぐに見つめて、
「今回はもう遠慮しないって決めたから。君にとことん付き合うよ」
「べっ……」
クロエの顔が上気する。本当は嬉しいのに、なんだか素直になれない。
それに、これから自身が行うことは、胸を張って言えるような行為ではない。悪事のようなそれに彼を巻き込むなんて、なんだか引け目も感じている。
「……別に、助けなんて要らないわ」
「一人より二人のほうが効率がいいだろう?」
「でも――」
「じゃ、もう決めたんで!」彼はポンと軽く彼女の肩を叩いた。「今回は君がなにかやらかさないように、側でずっと見ているからな!」
「みっ……!」
思わず息を呑む。心臓がどきりと跳ねた。
――ずっと見ている。
逆行前の影響で「見られる」という行為にどうも弱い。見られると、ぞくぞくと胸がざわつくのだ。それは自分の存在が証明されている気がするから。
人から見られて注目されて存在を認識されるって、なんて素晴らしいことだろう。
ましてや、大切な友人である彼からだなんて……。
「っっ……!」
喜びでみるみる胸がいっぱいになって、身体がぽっと火照った。
(駄目……私は愛とか恋だとか考えたらいけないのに……)
クロエの無言を、ユリウスは承諾と受け取って話を進める。
「君のことは、いつも見ているからな。心配だから影も付けることにした。それも三人だ。そろそろこっちに到着する頃だろう」
「か、影ぇっ!?」
聞き慣れない単語に覚えず声が裏返る。驚いて目を白黒させた。
(か、影って……たしか王族が持つ諜報機関なのよ、ね…………?)