ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
クロエは改めてユリウスを見る。
整った顔、いつも背筋を伸ばして美しい姿勢、隙なく手入れされている身なり……おそらく、名のある貴族の令息だとは予想していたが……影…………?
「ユリウス……あなたは、一体……?」
少しの沈黙。
風が二人の間を擦り抜けたあと、彼はゆっくりと口を開く。
「……クロエ、よくも俺の求婚を断ってくれたな」
そして、ニヤリとからかうように笑った。
「きゅっ……」
真っ白になりそうな頭を、ありったけの力で回転させる。
スコットという婚約者がいるにも関わらず、聖女になってから求婚が絶えなかった。
基本的には父に全てを断ってもらっていて、どこの誰が求婚したなんて知らないが……最近、父が舞い上がって、なおかつ「影」が持てるような人物は――……、
「ロっ……」
一瞬、心臓が止まった気がした。ぞくぞくと全身が粟立つのを感じる。
一拍して、おそるおそる高貴なその名を口にした。
「ローレンス・ユリウス・キンバリー第三皇子殿下……?」
ユリウスはしたり顔をして、
「じゃあ、正体も知られたことだし、改めて俺の求婚を承諾してもらおうか」