ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
クロエは、静寂を破る。
「ごめんなさい」
瞬時に、ユリウスの輝く瞳が曇った。
「なっ……なんで…………」
今にも消え入りそうな掠れた声で呟く。
彼女は、強い眼差しを彼に向けた。
「私は……逃げたくないの。きっとあなたの言う通り、私が過去に戻って来たのは『強い想い』があったのだと思う。だから、想いを遂げるまでは、戦いを止めたくない」
びゅうと、ひときわ大きな風が吹いた。
互いに互いの瞳を見つめて、静寂という空間の上に立つ。
ややあって、
「そうか」ふっとユリウスは笑いながら立ち上がった。「それなら仕方がないな」
「本当にごめんなさい……」
胸が痛くて、クロエは思わず顔を伏せる。心を閉ざすように、ぎゅっと目を閉じた。
もう、これ以上は考えたくなかった。
だって、そうしたら、頭の中が彼のことでいっぱいになってしまいそうだったから。