ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
これから魔法の授業が始まる。
人は誰しもが魔力を持っていて、それは身分が上がるほどに強くなる。国王は国一番の魔力を持ち、逆に平民は微かに体内に宿すだけだった。
クロエは侯爵家の人間なので、本来なら膨大な魔力を保持しているはずなのだが、彼女は未だに魔力発動の予兆はなかった。
これは個人差があって仕方のないことなのだが、16歳になる彼女が未だ魔法が使えないのは少し遅のでは……と、周囲から不安視されていた。
しかし、魔法の教師によると、たしかに彼女の体内には魔力の源が眠っているらしい。
だからクロエは、めげずに魔法の特訓に励んでいた。
今日は異母妹のコートニーの初めての魔法の授業だ。
悲しいことに、クロエも魔法が使えないので、今日は同じ初心者として一緒に授業を受けることになっていた。
(憂鬱だけど……初心に戻って頑張りましょう)
マリアンの言葉にすっかり気を良くしたクロエは、新たな気持ちで取り組むことにした。異母妹と並んで先生から講義を受ける。
目を閉じて、両手に精神を集中させて体内に巡る魔力を集約させる。
集中……集中……魔力を集中…………、
そのときだった。
ドン――と、腹の底を揺らすような衝撃がクロエを襲った。
驚いて目を開けると、隣に立っていたコートニーの両手からぷすぷすと煙が出ていて、彼女の前方にあった石像が粉々に砕け散っていたのだ。
それから、二人の立場が逆転するのに、時間はかからなかった。