ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
ユリウスがクロエの緊張をほぐそうと彼女の手を取った折も折、
「君はなにをしているんだっ!!」
スコットの怒気の孕んだ大声が彼の耳を貫いた。
魔法の効果が届く時間は過ぎていた。
「え? ――あ、あぁ、これはクロエ様を激励しようと思った次第ですよ、公爵令息様!」
「彼女は僕の婚約者だと言っただろう!? そのような非常識で無礼で教養のない振る舞いは改めていただきたい! ――さぁ、観客席へ行くぞ」
スコットは有無を言わさずにユリウスの首根っこを掴んで、引きずるように連行する。
一旦、立ち止まって、
「クロエ、コートニー嬢も、頑張ってね」
いつもの柔和な笑顔を姉妹に向けた。
「はぁ~い! 絶対優勝してみせますから!」と、自信満々のコートニー。
「二人とも、わざわざ来てくれてありがとう」と、苦笑いのクロエ。
「では、クロエ様! 私は客席から応援していますので! ちゃっちゃと優勝しちゃってください!」
「君はもう彼女に喋りかけるな」
「少しくらいいいじゃないですか、公爵令息様!」
「黙ってくれないか」
ユリウスはおちゃらけていたものの、一抹の不安があった。
クロエは……破滅に向かって行っているような気がする。
嫌な予感が頭から離れない。なんだか、このまま彼女が消えてしまいそうな気がして、胸に不穏が渦巻いた。
だから影も付けたし、協力も喜んで買って出た。
彼女が誤って道を踏み外さないように。どうか幸せになりますように……。
こうして、波乱の魔法大会は始まった。
クロエの一回戦は現役の魔導騎士だ。
想定外の癒やしの聖女の登場に、観客たちはどよめいたのだった。