ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
(ここは相手の出方を見たほうがいいわね)
クロエは警戒しながら相手を見ていた。
自分は聖女と呼ばれている人間だ。こちらから攻撃を仕掛けて、好戦的な姿を観客に晒すのは宜しくない。
だから、あくまでもカウンター攻撃のように見せかけて相手を倒さなければ。
「クロエ、コートニー、負けるなっ!」
正面から忌々しい父親の声が聞こえた。ふと目をやると、父と継母が国王の近くの高位貴族席に優雅に座っていた。
継母はツンと澄まして座っているようだが、コートニーと視線を合わせたかと思うと、ふっと怪しく弧を描いて笑う。
やはり、継母と異母妹はなにかを企んでいる。クロエはそう直感した。
「炎よっ!!」
そのとき、ケヴィンが声を上げる。
彼は短く詠唱をして、眼前に巨大な火球を顕現させた。
炎の塊は成人一人がすっぱりと中に入れるくらいの巨大な球で、ぼうぼうと音を立てて真っ赤に燃えていた。
火球は激しく燃え盛りながらうねって、みるみる変化をする。
そして、
「オオオオオオオオオッ!!」
炎のドラゴンとなって、雄叫びを上げた。沸き起こる歓声。会場内も熱気に包まれる。
太陽のような真紅の炎は、クロエのキラキラした銀糸を灰色に曇らせるような圧倒的な存在感だった。
「行け! 炎竜!」
ドラゴンがクロエに向かって、跳んだ。
刹那、突風が起こって、熱風が渦を巻く。一瞬の灼熱。頬が焼けるように熱い。
クロエは動転した様子で、魔法の杖を振り上げる。