ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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二回戦以降も、クロエはカウンター攻撃を主軸にして戦った。
さすがに、一回戦のような奇跡が何度も起きたら、審判や観客から怪しまれるかもしれない。
ある時は聖なるバリアで攻撃を弾いているかのように見せかけ、またある時は、空気の流れを止めてから一気に放出して風魔法のよう偽装した。
更には魔法の弾を装って、相手の魔法の時間軸を加速して消滅させたりもした。
聖女の優雅で神秘的な戦いぶりに、観客は「神の聖なるご加護だ!」と、涙を流しながら感嘆の声を上げていたのだった。
そして、勝利を重ねて準決勝。
相手はレイン伯爵令息だ。彼は水魔法の使い手で有名だった。今日も芸術のように美しい水魔法で勝ち進んでいったようだ。
「聖女様のお相手をつとめるなんて光栄です。どうぞお手柔らかに」
「よろしくお願いいたしますね」
レイン伯爵令息は、クロエに負けないくらいの派手な衣装だった。
それは白地に金糸で豪華な刺繍が施されて、これから舞踏会にでも行くような絢爛さだった。彼自身も見目麗しく、魔法も華麗で、美の権化のような存在だ。
「それにしても美しい……」とレイン。「その美貌を永遠に閉じ込めておきたいほどだ」
「……恐れ入りますわ、伯爵令息様」
クロエは粟立つ。にわかに胸の底から嫌悪感が込み上げて来た。
無性に気持ちが悪くて、息苦しさを覚えた。
(早く終わらせましょう)
これ以上彼の近くにいたくないので、彼女は足早に開始前の定位置へと向かった。なんだか身体が重い。