ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「準決勝A、始めっ!」
審判の合図で試合が始まる。
クロエは構えのポーズ。レイン伯爵令息はその場で一度くるりと回ってから、彫像のような壮麗なポーズを決めていた。
客席から令嬢たちの黄色い声が上がる。戸惑うクロエ。行動が全く読めなくて、これまでの相手と異なり、戦い辛い。
彼はまるで踊るように、黄金のタクトを振るった。
次の瞬間、無数の水の槍が同時にクロエを襲う。
「っ……!」
彼女は大きく後方に飛んで、攻撃を避ける。
水の槍は地面に着地して消えた。見ると、土がえぐられていて、殺傷能力の高さに目を見張る。
(これは……身体に直撃したら間違いなく貫かれるわね……)
クロエの額にじわりと汗が浮かんだ。やはり、準決勝の相手となると、強い。
自然なカウンター技に見せかけて勝利するのは、これまでよりも骨が折れそうだった。
金のタクトが太陽に照らされキラリと光る。刹那、またもや水の槍が飛翔する。彼女は今度は槍の時間軸を戻して、まるでバリアを貼っているかのように見せかけ、弾いた。
ばらばらと大粒の雨が降るような音。飛び散った水が地面を打ち、土埃を立てた。
しばし、対戦する二人の姿を覆って隠す。
そのときだった。
「っつっ!?」