ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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(あぁ……もうすぐ私の愛しい人形が手に入る……!)
地上にいるレイン伯爵令息は恍惚な表情を浮かべていた。水溜りの上で、下へ向かって魔法を操作する。
闇魔法は国際的に禁忌とされている。この試合会場でも、魔力は厳重に管理されていた。
しかし、それは「上」だけだ。地面の「下」の魔法の中までは影響は及ばない。そこは混沌とした無法地帯。闇魔法を使おうがなにをしようが、問題はないのだ。
彼はクリス・パリステラ侯爵夫人と密約を交わしていた。
魔法大会でクロエ・パリステラを敗北させた暁には、美しい聖女様を好きにして良いと言われていたのだ。
「美」――それは、彼の価値観の全てだった。
美しきものは尊い、醜いものは罪だ。
彼は特に若くて美しい人間が好きだった。瑞々しさを持つそれは、完全なる芸術品だ。
だから、永遠に閉じ込めておかなければならない。
伯爵家の地下室には、そんな美しい男女の剥製がずらりと並んでいた。
彼は、違法な方法で入手した美しい若者の肉体を存分に堪能してから、剥製にして永久の美を留めておくのが趣味だった。
聖女は、自身のコレクションの中でも、最高の品になりそうだ。美しい彼女の泣き叫ぶ姿を想像すると、ぞくりとする。
処女を痛め付けるのは最高の快感だった。傷が残らないようにギリギリのところを攻めるのが、スリリングで楽しい。
肉体をむさぼり、初めての快楽を与えてやって、最後は自分だけの永遠のお人形に昇華させるのだ。
彼女にとっても、最高の人生だろう。だって、快楽の中で生命活動を停止して、己の美しさがずっと世界に残り続けるのだから。
(あと少しで……最高傑作が…………)