ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
コートニーが魔法を使えるようになった今、クロエの魔力を奪うか……または殺す――に、方向転換をしたのだろうか。
レイン伯爵令息と侯爵夫人が、親密な関係にあるということも分かっていた。
クロエは、今後使えるカードの一つになるかもしれないと、二人を泳がせていたのだが、まさか彼からも狙われるはめになるとは。
「済まない。君の警護のことばかりを考えていて、夫人と令嬢の監視は怠っていた」と、彼は肩をすくめる。
「いいえ、ユリウスのせいじゃないわ。私のほうこそ油断をしていたから」
「……立てる?」
ユリウスが手を伸ばす。クロエは彼の手を取って、ゆっくりと立ち上がった。
「お互いにびしょ濡れね」彼女は魔法で彼の服を濡れていない状態まで時間を戻す。「本当にありがとう。助かったわ」
「悪い。……君も、このままだと風邪をひく」
彼が彼女に魔法をかけようとすると、
「駄目よ。水から出て来たのに衣服が乾いていたら不自然じゃない」
彼女は慌てて止めに入るが、
「大丈夫だよ。きっと観客は『聖なる力で守られた』とか言って、君の神秘性も上がる。一石二鳥だ」
彼は彼女に魔法をかけた。水にまみれて肌に張り付いていた衣装はからりと乾いて、ベトベトした不快さも消えていった。
「ありがとう」と、彼女は苦笑いをする。
「戦える?」
「もちろんよ。もう容赦しないわ」
「よし、その意気だ。じゃあ、次は決勝で」
クロエは頷き、ユリウスは踵を返して観客席へと戻った。