ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「決勝戦、始めっ!!」
これまでよりも気合の入った審判の声で、試合が開始した。
静かで、緊迫した空気。姉妹は黙って互いを見つめている。観客も固唾をのんで二人の様子を見守っていた。
(さぁ……どう出るのかしら)
クロエはここでもカウンター攻撃を主軸に戦おうと決めていた。まずは異母妹に好きなようにやらせて、いい気分にさせたところで反撃をしようと考えていたのだ。
「爆ぜろっ!」
動かない異母姉に痺れを切らしたのか、先に異母妹が動く。
彼女は人の頭よりも一回り大きな魔法の弾を立て続けに撃った。
クロエは後方に飛び跳ねて、それらをかわす。魔法の弾は地面に着地して、激しく爆ぜた。
連続する爆音。硝煙が漂う。土埃が晴れる前に、コートニーは次々と魔法の弾を撃ち続ける。その度に、どどどっと地面が揺れた。
「ほらほらぁ、逃げてばかりでは勝てませんよ、お異母姉様ぁっ!」
コートニーはこの試合で、異母姉との決定的な実力の差を、周囲に見せ付けようと考えていた。
今日は国王をはじめとする王族や、高位貴族も集まっている。そんな多くの国の要人たちの前で、異母姉なんかより自分のほうが優れている事実を知らしめてやるのだ。
きっと、姉妹の評価もがらりと変わって、二人の立場も逆転するはず。
そうしたら、スコットは自分のものになって、異母姉はあの田舎者の男爵令息と惨めな貧乏暮らしを送るはめになるだろう。
……いや、男爵令息のあの飛び抜けた顔の良さは許さない。異母姉が嫁ぐときに、綺麗な顔に魔法で大きな傷を付けてやろうか。
(っていうか、そもそもあの女が結婚して幸せな生活なんて許せない! やっぱり、娼館か奴隷商人に売り払うべきね…………)
コートニーの攻撃は続く。
彼女は爆撃系統の魔法が得意のようだった。逆行前も、圧倒的な魔力量で相手を捻じ伏せる戦いを好んでいた。それだけ周囲との差が歴然としていたのだ。