ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

 そのことは彼女自身も引け目を感じていた。
 授業ではどの科目も満点を取るような彼女だったが、唯一魔法だけはいつまでたってもできなくて、このまま一生魔法が使えなかったらどうしようと危惧していた。

 父も母も強力な魔力の持ち主だった。
 取り分け母親は古の魔法が使える一族の末裔だとして、その力を期待されて侯爵家と政略結婚を結んだのだった。
 だから、二つの血を受け継ぐ娘はどんなに素晴らし魔法を使えるようになるのだろう……と、待望されていたのだ。

 それが全く魔法を使えないとなったので、特に父親は酷く落胆したようだった。「パリステラ家の者として情けない」と。
 従者たちも口には出さなかったが、魔法が使えない長子をとても残念に思っていた。この国では魔法は重要な武器なのである。

 唯一、母親だけは「あなたは絶対に魔法が使えるようになるから大丈夫。人のよって速度が異なるのよ」と、励ましてくれたのだが、その兆しは皆無で……。
 クロエは、自分のことのように一生懸命に魔法を教えてくれている母に、申し訳なく思っていた。

 それに、このままの状態でジェンナー公爵家に嫁いでも良いものか、と悩むこともままあった。

 スコットは「クロエが魔法を使えても使えなくても構わない」と言ってくれてはいたものの、高位貴族なのに魔法が使えないなんて……。
 それはジェンナー公爵家の沽券にも関わるのではないかと不安だった。

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