ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

65 魔法大会です!⑥

「っぁあぁっっ……!」

 クロエは強く地面に叩き付けられる。
 防御する余裕もなく、コートニーの馬鹿みたいな威力の魔法は、彼女の身体を一瞬でぼろぼろにした。衣服を貫いて肌も切り刻み、傷口からじわりと赤い液体が滲んでいた。

「あはっ、もうスタミナ切れですかぁ~? 意外にあっけないんですね!」と、笑顔のコートニー。

 地べたから異母妹を見上げる。彼女はニタニタと嫌らしく口元を歪めて、異母姉を見下げていた。
 そして、更に上にいる継母。彼女も、娘に負けないくらいの底意地の悪い笑みを浮かべて、憎き継子を見下ろしていた。


(やっと効果が現れたわね……)

 クリスはほくそ笑む。彼女は今朝、クロエに遅効性の毒薬を飲ませていた。闇魔法の呪いが入った特別な毒だ。
 彼女は使用人の一人を買収して、朝食のスープに毒を混入させたのだ。

 使用人を手駒に入れるのは大変だった。あのクロエの侍女の盗難騒ぎで、別邸から連れて来た者たちは全て解雇されたからだ。
 それからは、使用人という名の監視者ばかりを置かれて、居心地の悪い日々を送っていた。

 彼女は孤立無援の中でも味方を作ろうと画策した。
 まずは使用人たちの背後関係を調べて、使えそうな情報を取捨選択した。

 そこで、ささやかながらギャンブルを楽しんでいるという人物を見つけた。今回の実行犯の使用人の弟だ。
 彼女はその人物に一度大きく勝たせてギャンブルに夢中にさせて、間もなくして破産させた。巨額な借金が残って、姉である使用人も困っていた。

 そこにクリスが肩代わりを申し出て、代償として今回の犯行を命令したのだ。

 このままでは家族が路頭に迷って、最悪は奴隷落ちするのではないかと恐怖していた使用人にとっては、天の恵みだった。彼女は縋る思いで提案を受け入れて、背に腹は代えられないと今朝の犯行に及んだのだった。
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