ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
会場内では闇魔法は禁止されているが、ルールによると場外での言及はない。
それに毒は一時的なもので、効果の時間が切れると完全に肉体から消え去って、証拠が残らないようにしてある。
決勝戦にだけ、効果が現れれば良いのだ。
それは愛娘と継子の試合の、ほんの一時だけだ。
(万が一のときのために用意しておいて正解だったわ……)
クリスは扇の下でくすりと笑う。
コートニーがクロエなどに負けるはずはないと信じていたが、性格の悪いあの女のことだ、なにかしらの汚い策を準備している可能性はある。その前にこちらから仕掛けて、完全に潰そうと考えていた。
可能ならば、嗜虐趣味のあるレイン伯爵令息に始末してもらって、彼のコレクションに加わったクロエの惨めな姿を娘と一緒に見物したかったが、惜しくも失敗に終わってしまった。
水中の闇魔法を退けるなんて、やはりあの女は一筋縄にはいかないようだ。
でも、そんな奇跡ももう終わり。
聖女はじわじわと毒に侵されながら、これまで見下していた異母妹によって倒されるのだ。
(あの女が屈する姿を早く見たいわ……)
その暁には、これまでの報復を込めて、生きることが辛いくらいの苦痛を味あわせてやろう。自分たちが受けた屈辱の何十倍もの惨めな思いを与えてあげるのだ。