ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「…………」
血管の隅々までに巡る魔力に集中して、体内の毒の気配を探る。
おそらく、死に至るような強毒性の種類ではないだろう。
国王主催の大会でそんな恐ろしいことをすれば、すぐに騎士団が駆けつけて仕掛けた側が拘束されてしまう。いくら継母たちでも、そのような危険性のある行動をするはずがない。
ならば、一時的な効果の毒だと考えると合点がいく。
狙いは、今この瞬間。決勝戦に合わせて盛ったに違いない。
(きっと時間がたてば効果は自然に消える、ということなのよね……)
クロエは自身に喝を入れて、根性で痺れる上半身を起き上がらせる。そして、おもむろに胸に手を当てた。
いずれ消える毒ならば、時間を早めてさっさと消せばいい。一時的に苦しみが押し寄せて来るかもしれないが、ほんの少しだけの我慢だ。
(時の流れよ……!)
魔法をかける。
刹那、心臓を握りつぶしそうな圧迫感が彼女を襲った。
「うっ……」
辛い。痛い。苦しい。……でも、耐えるしかない。
コートニーなんかに、絶対に負けない!
「ああぁっ……!」
クロエの断末魔のような叫び声が一瞬聞こえたかと思うと、すぐに静かになった。観客たちは、何事かと固唾を呑んで聖女を見つめる。
静寂。
そして、
ドン――と、力強い足音を立てて、クロエは立ち上がった。