ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「なっ……なんですって!?」
クリスは目を剥く。
「なんで……なんで立ち上がれるのっ!?」
コートニーは思わず絶叫した。毒に侵されているはずの異母姉が堂々と立っているのだ。
信じられなかった。闇魔法で正確に計算して調合された毒の効果が消えているなんて。何度も実験したのに、おかしい。
やはり、あの女は奇跡を起こす聖女なのだろうか……。
「死ねっ!」
はっと我に返ったコートニーは、再びクロエに攻撃を仕掛けた。
さっきよりも巨大な魔法の弾だ。今度こそ確実に異母姉を仕留めようと、ありったけの魔力を込めて、連続で撃ち込んだ。それこそ、逃げる隙間もないくらいに。
けたたましい爆発音が鳴り響く。地鳴りのような音と、大地の震え。黒煙が太陽を隠した。
「やった……」
コートニーは乾いた笑いをこぼす。あれだけやったら、あの聖女もかわすことができないだろう。
自分の勝ちだ。これで、あの女の名誉もプライドもズタズタだ。
しばらくして、煙の間から太陽の光が漏れ始める。彼女は異母姉が無様に倒れている姿を見ようと、一歩近付いた。
そのときだった。
「あら、もうおしまい?」
異母姉の、いつもの小馬鹿にしたような腹立たしい声が聞こえる。その前には、ついさっき自分が放ったはずの魔法がふわふわと浮かんでいた。
「そっ、そんなことって……!」
あれだけ爆撃して、あの女に直撃したはずなのに。弾は撃ち切ったはずなのに。
(なんで、あたしが放つ前の状態になっているの!?)
クロエは冷酷に笑う。
ただ恐ろしくて、コートニーは総毛立った。
「じゃあ、これはお返しするわね」
次の瞬間、おびただしい数の魔法の弾がコートニーに降り注ぐ。
「きゃっ……」
急いで防御魔法を発動させる。
しかし、圧倒的な量の魔法は、分厚い保護膜さえも貫いた。
「きゃああぁぁぁぁっ!!」
コートニーの悲鳴。耳をつんざくような爆発音は、その声も掻き消した。
「ねぇ、コートニー」
クロエは独り言のようにポツリと呟く。
そして、口元を歪めて小さく嗤った。
「私、聖女なんかじゃないわ…………」