ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
しばしの沈黙のあと、
「これは……ジェンナー公爵家が管理している魔石です!」
騎士の一人が張りのある声を響かせた。
次の瞬間、スコット・ジェンナー公爵令息に数多もの視線が集まった。
「えっ……はっ…………?」
虚を衝かれたスコットは頭が真っ白になって、ただ硬直する。本当に、意味が分からなかった。
ジェンナー公爵領は天然の魔石の採掘量が国内で随一で、公爵家はその恩恵を受けて発展していった。
他の領地よりも質の良いジェンナー領の魔石は王室にも献上していて、代々の国王を戦場で何度も救っていた。そのお陰で、公爵家は国内でも有数の名門貴族になったのだ。
そんな魔石を使って御前試合で不正を行うということは、反逆罪も同然であり、今後のジェンナー家の命運は……それは火を見るより明らかだ。
折悪しく、今は彼の両親――ジェンナー公爵と公爵夫人は領地へ視察へ出掛けていて、嫡男である彼が家門の代表だった。初めて受ける侮蔑の混じった視線の数々に、彼は戸惑いを隠せない。
状況が理解できずに完全に思考が固まってしまっている彼のもとに、屈強な騎士たちが慌ただしくやって来て、罪人のように拘束されるのにそう時間はかからなかった。