ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「やっぱり……」張り詰めた沈黙の中、クロエが口火を切る。「二人は、そういう関係だったのね……。それで、邪魔な私を陥れようと……」
「違うっ!!」
スコットはがばりと勢いよく顔を上げて、愛しの婚約者を見る。その双眸は、真実が映っているかのように澄み切っていた。
「僕は知らない! これは陰謀だっ!」
「で、でも……実際にコートニーがジェンナー家の魔石を持っていたじゃない!」
「だからっ、本当に知らないんだ……!」
「あっ」それまで黙っていたコートニーも口を開く。「あたしも知らない! どうせ、あんたがなにか仕組んだんでしょう!?」
クロエは目眩でふらついたように身体をぐらりと揺らして、
「そうやって二人してしらを切るのね。……私、あなたたちがこっそりと会っているのを知っていたわ」
「それは誤解だっ、クロエ!」
スコットは必死で訴えかけるが、婚約者は彼の目さえ見てくれない。
会場内は令嬢を中心に、スコットとコートニーの忌まわしい話題がみるみる広がっていった。
「やっぱり、わたしの勘違いじゃなかったのね。以前からおかしいと思っていたの」
「私、スコット様とコートニーさんが二人きりでいるところを見たことがあるわ」
「公爵令嬢のお茶会のときだって、スコット様とあの子は抱き合っていたわよ!」
「クロエ様は聖女として国のために頑張っていらっしゃるのに、二人はその間に浮気ですって?」
「最低だわ……」
疑惑と軽蔑の目が、スコットとコートニーをぐるりと取り囲む。
初めて浴びる痛いほどの鋭い視線が、スコットの胸を重く突いた。かっと身体が熱くなって、打ち震える。
「ちがっ……」と、彼は力なく抗議の声を上げた。
しかし、それは届かない。
にわかに目の前が真っ暗になった。
公爵令息である己の言葉を聞いてもらえない、信じてもらえないという未知の体験に、彼はただ項垂れるしかなかった。