ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「二人が愛し合っているのなら、私も潔く身を引こうと考えていたわ。……でも、こんな恐ろしい計画を考えていただなんて」
「はぁっ!? なに言ってるの!」
黙り込むスコットの代わりに、コートニーが大声を上げた。顔を真っ赤にさせて、ぎりぎりと歯噛みする。
悔しい。これ以上、この女にやられっぱなしでいるものか。絶対に無実を証明して、返り討ちにしてやる。
「あたしは魔石なんて使っていないわ! だって、そんなの使わなくても強いんですもの。たしかにスコット様とは愛し合っているけど、試合で魔石を使う話なんてしたことがないわ!」
彼女は勢い余って「愛し合っている」と、余計な一言を付け加えてしまう。それは全くの出任せだが、今の二人を取り巻く状況を顧みると、ますます不利に動くのに馬鹿なことを……と、クロエはほくそ笑んだ。
「コートニー、国王陛下の前でこれ以上嘘を重ねては駄目よ」と、素知らぬ顔で異母姉は言う。
「うるっさいっ!! 嘘つきはあんたでしょっ!!」
「ちゃんと自分の罪と向き合って? 可能な限り、私も精一杯のお手伝いをするから」
クロエはまたもや汚れのない美しい涙を流した。
婚約者と異母妹の裏切りを前にしても聖女はなんと慈悲深い……と、場内の同情が一斉に彼女に向けられる。
もう、コートニーとスコットに与する者は皆無だった。彼らの唯一の味方は、客席で騎士に囲まれて逆上しているクリス・パリステラ侯爵夫人くらいだ。
それでも、コートニーの怒りは止まらない。
「はあぁぁっ!? なに良い子ちゃんみたいなことを言ってんのよ! 全部あんたが仕組んだんでしょうっ!?」
「コートニー……なにを言っているの?」
「ふざっけんな! ブス!」
にわかに、ずっとへたり込んでいたコートニーは、渾身の力を込めて立ち上がった。
そして、
「死ねっ、クソ女っ!!」
右手にありったけの魔力を込めて魔法を――……、
「えっ…………」
彼女の手からは魔力の欠片さえも放出されなかった。
「ちょっ、ど、どういうことっ!?」
もう一度、魔法を使おうと試みる。しかし、何度やってもなにも起こらない。
体内の魔力の流れを感じようとしても……一滴さえも、残っていなかったのだ。
「なんで……なんで魔法が使えないのっっっ!?」
コートニーの大音声の金切り声が場内に響いた。