ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「――じゃあ、そろそろやりますか、クロエ様?」
「そうね」
静止している土埃の隙間から、コートニーを見る。満身創痍の肉体は、もう戦闘不可能だろう。
「……本当に、いいんだな?」
囁くような低い声音に驚いてクロエが振り返ると、ユリウスが真剣な面持ちで彼女を見ていた。それは、どことなく陰りを帯びているようだった。
「当然よ」と、クロエは決意するように強く言う。
「実行すれば、君の家門も深い傷を負う。そうなれば、君自身にも疑惑の目が向けられる可能性もある。聖女の地位だって――」
「覚悟の上だわ」
ユリウスは軽く肩をすくめてから、懐から巾着袋を取り出した。
クロエはそれを受け取る。その中には、ジェンナー公爵家の魔石がゴロゴロと入っていた。
彼女は、彼に公爵家の魔石を手に入れて欲しいと頼んでいた。それも、スコットがコートニーのために個人的に用意したように見せかけて。
彼は快諾して、早速仕事に取り掛かった。ジェンナー家の魔石は厳重に管理されているので少しばかり骨が折れたが、それでも帝国皇子の彼にとっては問題なく入手することができた。
……スコット・ジェンナーの名前で。
クロエは魔石をコートニーの周辺に散らばせて、特に大きなものは彼女の懐の中にしのばせた。
そして、
コートニーの体内を流れる魔力を、完全停止させたのだ。