ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


「俺とクロエは同じ属性の魔法が使えるんだ」

 静寂の中、皇子は静かに語り始める。

「それは……聖なる魔法、ですか?」

「いいや、違う」

「え……? しかし、クロエは――」

「俺たちが操れるのは、時間だ」

「っつ……!?」


 不意に、皇子がスコットの頭上に手を置いた。

 そして、

「お前の記憶を呼び戻してやるよ。無様な過去を」

 魔法を発動させた。

 刹那、スコットの脳内に、堰を切ったように大量の記憶が押し寄せる。



 ――泣かないでくれ、クロエ。君が泣いていると僕も悲しくなる

 ――ははっ、元気な可愛らしい異母妹だね

 ――……ごめん。気分が悪くなったから帰るね。今日は見送りも要らないから

 ――クロエが……夜な夜な男と遊び歩いているだって…………?

 ――いや……僕はネックレスを大切にしてくれる人が着けてくれるほうが嬉しいかな

 ――もういいんだよ、無理しなくて。……僕が、君の味方になる


 ――君のような女性とは、もう一緒にいられない



 ――ただの…………ゴースト、だろう?



「っっつうあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ…………!!」

 記憶の波濤は、彼の頭を撃ち抜くように、容赦なくなだれ込んでいった。
 彼の絶叫が、空虚な暗闇を満たしていく。

 自然と涙が流れた。氷の塊に殴られたみたいに頭がキンキンと鳴って、全身から汗が吹き出て、酷い寒気と芯から燃えるような熱さが彼を蝕んだ。


 嫌だ……知りたくなかった……こんなの嘘だ……僕はクロエを……だって彼女は……コートニー嬢だって…………、

 ………………、

 ………………、

 ………………、


 ………………………………ゴースト、


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